様々な種類の公務員
わが国では、全国で約333万人が公務員として働いています。一口に公務員と言っても、その種類は多種多様で、仕事内容も多岐にわたっています。
国会議員や公立校の教員も公務員ですが、ここでは、いわゆる公務員試験を受験してなることのできる「役所」で働く公務員に限定して解説します。
公務員の大半は、試験に合格すれば理論上は誰でもなることができます。しかし公務員試験にも様々な種類のものがあり、どれを受験したらいいのか迷っている方も多いと思います。
試験が難しすぎたり、望まない転勤があったりといったミスマッチが生じないよう、初めにターゲットを見定めてから公務員受験の準備に入ってください。
公務員の分類基準
公務員を種類別に分類すると、概ね以下のような基準により数種類に分類されます。
2.試験の区分や職種別の分類
3.レベル別・難易度別の分類
4.試験科目が多いか少ないか
5.危険を伴う職種なのか否か
ではこれらを順番に解説していきます。
1.国家公務員と地方公務員
公務員の種類を大きく分けると、国家公務員と地方公務員に分類されます。
国家公務員 | ・中央官庁や出先機関で働く ・国家公務員試験(総合職・一般職・専門職)を受験してなる |
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地方公務員 | ・県庁や市役所などで働く ・地方公務員試験(上級・中級・初級)を受験してなる |
また、国家公務員と地方公務員では以下のような違いがあります。
地方公務員・・・転勤の範囲は限られるが、部署間の異動は頻繁に実施される。
公務員の人数
ところで皆さん、日本には国家公務員と地方公務員それぞれ何人ぐらいいるかご存知でしょうか?
令和3年(地方公務員については平成31年)の統計によると、国家公務員が約588,000人、地方公務員が約2,743,000人、合計約3,331,000人が公務員として働いています(人事院と総務省の資料より)。
このグラフを見ると、国家公務員の数は思ったより少ないことが分かります。ただ、国家公務員と地方公務員を合わせると、公務員の人数は全国民の40分の1弱を占めます。しかし1億2,000万強の全国民から子どもや高齢者を除いた就業者数はわずか6,724万人です。つまり、全就業者の約5%が公務員として働いている計算になります。
もっともこの中には大臣などの特殊な公務員も含まれています。しかし、大部分がいわゆる公務員試験を受験し合格しさえすれば、原則として誰でもなることの出来る公務員です。
なお、国家公務員と地方公務員の詳細については以下のページを御覧ください。
2.試験の区分や職種別の分類
国家公務員でも地方公務員でも、多種多様な仕事があり、多種多様な区分で採用が行われています。
大まかに分類すると、事務系区分か技術系区分かになりますが、事務系区分でも行政一般事務以外に「法律」区分や「経済」区分を設けている試験もあります。
技術系区分には、技術職の代表的な職種である「土木・建築・機械・電気」の他、農学や林学区分を設けて採用を行っている試験もあります。ただし、地方公務員の場合は自治体の規模により、区分の数自体が変わってきます。
さらに「福祉」や「心理」といった人間科学系区分や「保健師」などの資格専門職の区分を設置して採用を行っている自治体もあります。
たとえば国家一般職(大卒程度)と特別区Ⅰ類を例にとり、国家公務員と地方公務員の試験区分を確認してみましょう。
国家公務員 一般職 (大卒程度) |
行政、電気・電子・情報、機械、土木、建築、物理、化学、農学、農業農村工学、林学 |
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特別区Ⅰ類 | 事務、電気、機械、土木、造園、建築、心理、福祉、保健師、衛生監視(衛生)、衛生監視(化学) |
これを見ると、国家公務員はインフラなどの整備が中心のため、技術職の採用職種が豊富なのが分かりますね。
一方、区役所の職員として住民サービスが中心となる特別区などの基礎自治体職員は、福祉系などの職種が豊富なのが分かります。
ただ、国家公務員には専門職(国税専門官など)という試験が別にあり、会計系や人間科学系などの人材を必要とする官庁は、専門職員を独自に採用しています。
したがって、国家公務員全体でみれば決して技術職寄りというわけではありません。各職種とも比較的バランスよく採用されています。
職種・区分による採用先や配属先の違い
公務員はどの職種・区分で採用されるかにより、配属先や携わる仕事内容にずいぶん差があります。
一般的には、行政職や事務区分で採用されると、オールラウンダーとして様々な部署に配属されます。(国家公務員の場合は、総合職や一般職の行政区分で合格すると、ほぼ全ての官庁の採用面接を受けることができます)
しかし技術職や人間関係区分で採用されると、ある程度採用先や配属先が限定されます。
様々な仕事を経験してみたい方は行政職。専門分野に特化して仕事をしたい方や児童相談所など特定の勤務先を希望する場合は専門職種が適していると言えます。
ただし、受験可能な職種は大学の専攻分野によってある程度決まります。文系の方が電気や機械といった職種で受験することは現実的ではありません。
3.レベル別・難易度別の分類
前述したように、特殊な公務員を除くと大部分の公務員は公務員試験を受験して合格しなければなることができません。公務員の難易度と言えば、一般的には「国家総合職は難しい」「都庁は難しい」といった漠然としたイメージを抱いている方が多いと思います。
確かに、国家総合職や東京都Ⅰ類の問題は難しめです。
しかし、国家総合職が国家公務員試験の最難関か?東京都Ⅰ類が地方公務員試験の最難関か?といえば、そうとも言い切れないのです。(ただし国家総合職は最終合格後、官庁訪問の結果、内定を勝ち取るまでは大変です)
倍率が高い試験=難易度が高いと考えるなら、他にもっと難易度の高い試験が沢山あります。
試験の倍率は「需要(=受験者)」と「供給(=採用数)」のバランスで決まります。つまり、採用数が少ないのに受験者がそれなりにいると倍率が跳ね上がります。採用数の多いメジャーな試験は、問題が難しくても倍率は意外と低かったりします。
受験者が少ない試験は難易度が正確に判定できないため、ある程度の受験者がいる試験の難易度の目安を示しておきます。なお、下記の表は全て大卒レベル行政(事務)系公務員試験を対象としています。
超難関 | 国家総合職、裁判所総合職、衆参事務局総合職 |
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難関 | 外務省専門職、防衛省専門職、労働基準監督官、東京都Ⅰ類B |
標準 | 国家一般職、国税専門官、財務専門官、特別区Ⅰ類、地方上級 |
易しめ | 一部の市役所試験等 |
上記の表はあくまで目安です。上述したように、試験問題は難しくても倍率が低い試験もあります。また、地方上級公務員は自治体や年度による差が激しいので一概に難易度を論じることはできません。
さらに、上記の表は行政事務系のみで各試験種の難易度を並べてみましたが、実は、公務員試験の倍率やなり易さは職種や区分による差が激しいのです。では、職種・区分による受かりにくさを見てみましょう。
行政系 | 試験種や自治体による差はあるが、全体としては標準的な倍率。自治体を選びきちんとした対策をすれば、合格するのはそれほど難しくない。ただし10年タームで見ると採用数の変動が激しい。 |
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心理系 | 国家公務員地方公務員を問わず、難易度・倍率ともにハイレベル。併願先も少ない。受験者に院卒者も多いため、専門科目については相当な対策が必要とされる。予備校必須の試験種といえる。 |
福祉系 | 国家公務員試験では福祉に関する知識を活かせる試験種が少ないが、地方公務員試験では、採用数も多く倍率も比較的低い自治体が多い。特に首都圏では地方公務員を2つ併願できるためお勧めの職種。 |
技術系 | 他の試験種と比較して最も倍率が低いのが技術系公務員試験。特に「土木」「建築」区分では2倍を切るのが一般的。しかし「土木・建築・機械・電気」以外の区分は国家地方とも採用数が少ないのが難点。 |
いかがでしょうか?
一口に公務員試験と言っても、試験種や区分により様々なので難易度を一概に語れないのがお分かりいただけたかと思います。なお、地方公務員の区分ごとの受験者数、合格者数や倍率をお知りになりたい方は「地方上級(行政職)」「地方上級(心理職)」「地方上級(福祉職)」「地方上級(技術職)」それぞれのページを御覧ください。
国家公務員試験については全ての職種をまとめて各試験別に掲載してあります。それぞれの試験の詳細は「国家総合職」「国家一般職」「国税専門官」「財務専門官」「労働基準監督官」「裁判所事務官」等のページに掲載してあります。
その他の職種や区分
さきほど挙げた4つの系統のみが公務員の全ての職種ではありません。
これ以外にも、公安系公務員(警察官や消防官)、資格免許職(保健師や栄養士)、現業職など様々な種類の公務員が役所や出先などの関係機関で勤務しています。
国家公務員にもこれらの職種の公務員がいないわけではないのですが、非常に僅かです。主な活躍の場は地方自治体です。公安系公務員は、警察官は都道府県、消防官は市町村で毎年かなりの人数を採用しています。資格免許職は公安系と比べると採用は少な目ですが、大規模な自治体を中心にコンスタントに採用を行っているところも多くなっています。
また、公立保育園の保育士や公立学校の教員も公務員です。保育士の採用は中級程度の公務員試験として実施している自治体が多いですが、教員はいわゆる「公務員試験」ではなく教員採用試験という別の試験を受験することになります。
大卒程度の公務員を中心に解説しましたが、各種公務員の採用は「高卒程度」でも実施されています。詳しくは以下のページをご覧ください。
4.試験科目が多いか少ないか
公務員試験は資格試験などと比べて試験科目が多いという特徴がありますが、それでも試験種によって出題科目数は随分異なります。
最も大きな違いは、専門科目があるかないかです。専門科目が課される試験の負担度は、教養のみの試験と比べて概ね2.5倍になります。
専門科目がある試験とない試験は以下の通りです。いずれも大卒レベルの試験を対象としています。高卒レベルの試験は技術職を除くと原則として教養のみ(作文試験や適性試験等含む)です。
専門科目が課される試験 | 国家総合職、国家一般職、国家専門職(国税専門官など)、裁判所職員、東京都Ⅰ類、特別区Ⅰ類、地方上級(県や政令市)、一部の市役所、警視庁行政職員、国立国会図書館等 |
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教養試験のみの試験 | 警察官、消防官、地方上級の一部の職種、半数以上の市役所、皇宮護衛官、国立大学法人等職員、文部科学省文教団体職員 |
準公務員も含めていますが、教養のみの大卒程度公務員試験が少ないのがお分かりいただけるかと思います。
教養試験のみで大卒程度公務員を目指すなら、警察官・消防官などの公安系公務員か市役所が中心となります。
大卒程度の国家公務員試験や地方公務員試験は一般的に専門試験が課されます。ただし一部例外があり、相模原市のように行政区分で専門試験を課さない自治体もあります。
可能な限り併願先を増やそうと思うと、やはり専門科目を学習し専門試験のある公務員試験を受験するのが得策ですが、もちろんその分負担も増えます。
また、必ずしも教養のみの公務員試験が受かり易いとは限らないのが難しいところです。
たとえば、教養科目で大きな配点を占める「数的処理」が苦手な場合、専門試験のある試験なら専門でカバーすることも可能です。しかし教養のみの試験では数的処理が苦手なら致命的です。
科目が多い=難易度が高い、科目が少ない=難易度が低い、といった決め付けは危険です。
場合によっては、専門科目が課される科目数の多い試験は対策が大変だが、その負荷に耐えられれば倍率の低い試験を受けられるということもあります。
公務員試験に出題される科目
それでは、公務員試験にはどんな科目が出題されるのかを専門と教養別に見ていきましょう。
専門科目 | 憲法、民法、行政法、ミクロ経済、マクロ経済、財政学、経営学、会計学、政治学、行政学、社会学、国際関係論、労働法、刑法、商法 |
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教養科目 | 数的処理(数的推理、判断推理、空間把握、資料解釈)、文章理解(現代文、英文、古文)、人文科学(世界史、日本史、地理、文芸・思想)、自然科学(物理、化学、生物、地学、数学)、社会科学(政治、法律、経済、社会、国際)、時事問題 |
これは行政(事務)区分の例です。
受験先によってこのうち幾つかの科目が出題されなかったりしますが、何箇所も併願する場合は全ての受験先に対応できるようほとんどの科目を学習する必要があります。
例えば地方上級と国家一般職を併願する場合、どちらの試験も専門科目が概ね10科目程度必要です。(国家一般職は8科目選択ですが2科目分スペアを用意することを想定)
専門科目ありの公務員試験を受ける場合、いずれにせよかなりの科目負担になることがお分かりかと思います。この科目負担に耐えられないとお感じの方は、教養のみで勝負できる試験に絞るというのも一つの方法です。
なお、公務員の採用試験に出題される科目の詳細については「公務員の試験科目」をご覧ください。
5.危険を伴う職種なのか否か
どのような仕事でも全く危険がないわけではありません。それは公務員でも同じです。ただし危険の程度は職種により大きく異なります。分類基準の最後に、危険度による違いを挙げておきます。
市役所の戸籍課の窓口で婚姻届けや離婚届の提出を一日中待っている公務員と、警視庁の組織犯罪対策課で日々犯人を追いかけている公務員の危険度はもちろん全く同じではありません。
犯罪者を取り締まったり市民の安全を守る公安系の公務員は危険度も高いのは事実です。ただし公務員の死因は癌と自殺と心臓系疾患が上位を占めているので、殉職の心配はそれほどしなくても大丈夫という見方もあります。
また、危険度の高い公務員は報酬がその分高めです。一例を挙げると、警視庁Ⅰ類や東京消防庁Ⅰ類の初任給は、国家公務員総合職院卒者と並んでトップクラスです。
給与が高い公務員になりたいなら、公安系公務員はお勧めです。ただ、身体要件と体力検査がありますので、誰でもなれるわけではないという点には注意が必要です。